デザインシステムというと、大企業が数千万円かけて構築するものというイメージがあります。しかし中小企業でも、「色・文字・余白・ボタンのルールを1枚にまとめる」ところから始められます。そしてその1枚だけでも、外注時の品質と更新の速度は変わります。
導入が必要になるのは、規模ではなく関わる人が複数になったときです。担当者が1人でサイトを触っている間は問題になりませんが、外注先が加わり、担当が交代し、ページが増えると、必ず一貫性が崩れます。
この記事では、デザインシステムを段階に分けて整理したうえで、中小企業が最初に作るべき範囲、作り方の手順、そして運用が続かなくなる原因までを解説します。
この記事でわかること
・デザインシステムの構成要素と、段階別の導入範囲
・中小企業が最初に作るべき「1枚のルール」の中身
・導入で実際に得られる効果(制作速度・品質の安定・外注コスト)
・作り方の手順と、既存サイトからの棚卸し方法
・運用が止まる原因と、止めないための工夫
結論:段階を分けて、最小から始める
すべてを最初から作る必要はありません。段階を分けてください。
| 段階 | 内容 | 必要になるタイミング | 作成の手間 |
|---|---|---|---|
| ① 基本ルール | 色・文字・余白・ロゴの使用規則 | 外注が始まったとき | 1〜2日 |
| ② パーツ定義 | ボタン、見出し、表、フォーム、カードの見た目と使い分け | ページが10を超えたとき | 1週間程度 |
| ③ 実装との連動 | CSSの変数化、コンポーネント化 | 更新頻度が高くなったとき | 制作会社と共同 |
| ④ 運用ルール | 更新手順、追加時の判断基準、管理者 | 複数人が触るようになったとき | 継続的 |
中小企業では、①だけでも十分に効果が出ます。②以降は必要になってから追加してください。最初から完全なものを目指すと、作ること自体が目的化して完成しません。
デザインシステムは規模ではなく「関わる人数」で必要になります。
まず色・文字・余白・ロゴの1枚を作る。それだけで外注品質が安定します。
最初に作る「1枚のルール」
次の項目をA4で1枚にまとめてください。特別なツールは不要です。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| ロゴ | 正しい使い方、最小サイズ、余白の確保、禁止事項(変形・色変更・過度な装飾) |
| 使用色 | 色名・カラーコード・用途(ベース/メイン/アクセント/文字/境界線/状態色) |
| 書体 | 使用フォント、ウェイト、用途(見出し/本文/強調) |
| 文字サイズ | 本文、見出し(H2〜H4)、注釈のサイズと行間 |
| 余白 | 刻み(8の倍数など)と、要素間の使い分け |
| ボタン | 主CTA・副CTAの見た目、サイズ、使い分け |
| 禁止事項 | 使わない色、使わない書体、やらない装飾 |
「禁止事項」を入れることが実務では効きます。やってよいことより、やってはいけないことのほうが伝わりやすいためです。
導入で得られる効果
| 効果 | 具体的に何が変わるか |
|---|---|
| 外注品質の安定 | 制作会社が変わっても、成果物の見た目が揃う |
| 制作スピードの向上 | 毎回ゼロから決めない。判断の回数が減る |
| レビューの効率化 | 好みの議論が減り、ルールに沿っているかで判断できる |
| 更新の一貫性 | 担当者が交代しても、ルールが引き継がれる |
| 外注コストの削減 | 指示が明確になり、修正の往復が減る |
| ブランドの一貫性 | 複数の接点(サイト、チラシ、SNS)で印象が揃う |
3番目が、社内で最も体感される効果です。「この色でいいか」「この余白でいいか」という議論が、ルールを見れば終わります。レビューの時間が短くなり、判断が属人的でなくなります。
作り方の手順
ゼロから作らず、既存サイトから棚卸しする
- 既存サイトで使われている色を全部抜き出す:ブラウザの検証ツールで確認できる。多くの場合、想定より多い
- 用途ごとに分類する:背景/文字/見出し/ボタン/境界線
- 似た色を統合する:微妙に違う複数のグレーは1つにまとめる
- 残った色に名前と用途を付ける:brand-500、text、borderなど
- 文字サイズと余白も同様に棚卸しする:使われている値を並べて、刻みを決める
- 1枚にまとめて共有する:スプレッドシートやスライド1枚で十分
1番目で驚くことが多い工程です。「3色くらい」と思っていたサイトで、実際には十数色使われているというのはよくあります。まず現状を可視化してください。
色の決め方についてはWebサイトの配色の決め方|ブランドカラーから展開する方法、余白についてはWebデザインにおける余白の効果で解説しています。
誰が作るか
| 作成者 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 制作会社に依頼する | リニューアルと同時に整備する | 納品物として明示的に依頼する必要がある |
| 社内で棚卸しする | 既存サイトがあり、費用をかけたくない | 検証ツールの操作が必要 |
| デザイナーと共同で作る | 継続的に制作物が発生する | 運用ルールまで一緒に決める |
制作会社に依頼する場合、「デザインルールのドキュメント」を成果物として契約に含めてください。含まれていないと、デザインデータだけ納品され、ルールは制作者の頭の中に残ります。
運用が止まる原因
| 原因 | 対策 |
|---|---|
| 最初から完璧を目指す | ①の1枚から始める。②以降は必要になってから |
| 作ったが共有されていない | 外注時の依頼書に必ず添付する運用にする |
| 例外が増えて形骸化する | 例外を追加するときの判断者を1人決める |
| 更新されないまま古くなる | 年1回の見直し日を決める |
| CMSの編集画面で自由に色を変えられる | 編集者が選べる選択肢を制限する |
| 管理者が決まっていない | ルールの更新権限を持つ人を明示する |
3番目が最も多い形骸化の原因です。「今回だけ特別に」を繰り返すと、ルールは意味を失います。例外を認めるかどうかの判断者を決めておいてください。
導入すべきか判断する
| 状況 | 判断 |
|---|---|
| サイトを触るのが1人だけ | 不要。頭の中のルールで足りる |
| 外注先に制作を依頼している | ①の1枚を作る価値がある |
| ページを追加するたびに見た目がばらつく | ①を作る |
| 複数の制作物(サイト・チラシ・SNS)がある | ①を作り、全媒体で共有する |
| 更新頻度が高く、複数人が触る | ②③まで進める |
| 複数サイト・複数ブランドを運営している | ③④まで整備する価値がある |
よくある質問
Q. 専用ツールは必要ですか?
不要です。スプレッドシートやスライド1枚でも機能します。デザインツール上でスタイルを登録しておくと制作が効率化されますが、まず「文書として存在すること」が先です。
Q. 作るのにどのくらいかかりますか?
既存サイトからの棚卸しであれば、①の1枚は1〜2日で作れます。ゼロから設計する場合は、ブランドコンセプトの言語化から始まるため、もう少しかかります。
Q. スタイルガイドやブランドガイドラインとは違いますか?
重なる部分があります。一般に、ブランドガイドラインはロゴや色などブランド表現の規則、デザインシステムはそれに加えてUIパーツや実装まで含む、という整理がされることが多くなります。中小企業では厳密に分けず、1つのドキュメントにまとめて構いません。
Q. 制作会社が変わっても使えますか?
使えます。むしろ、そのために作ります。依頼時に添付するだけで、新しい制作会社でも既存の見た目に合わせられます。デザインの元データと合わせて、自社で保管してください。
Q. どこまで細かく決めるべきですか?
迷ったら「その項目でばらつきが起きているか」で判断してください。実際にばらついていない項目は決めなくて構いません。ルールが多すぎると、参照されなくなります。
まとめ
デザインシステムは、規模ではなく「関わる人が複数になったとき」に必要になります。そして最初から完全なものを目指す必要はありません。色・文字・余白・ロゴ・ボタン・禁止事項をA4で1枚にまとめるところから始めてください。
作り方は、ゼロから設計するのではなく既存サイトからの棚卸しが早道です。使われている色を全部抜き出し、用途で分類し、似た色を統合し、名前と用途を付ける。この工程で、想定より多くの色が使われていることに気づくはずです。
運用が止まる最大の原因は、例外の積み重ねです。「今回だけ特別に」を繰り返すとルールは形骸化します。例外を認める判断者を1人決めておいてください。
「ページを追加するたびに見た目がばらつく」「外注のたびに指示に時間がかかる」「担当者が交代して基準が失われた」といった状態にある場合は、1枚のルール作成から着手する価値があります。
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