CI(コーポレートアイデンティティ)とVI(ビジュアルアイデンティティ)は、言葉の定義を覚えても実務では動きません。必要なのは自社にはどこまで必要かの判断です。
大企業の事例をそのまま参照すると、中小企業には過剰な範囲になります。分厚い規定を作っても、運用する人がいなければ使われません。逆に、何も決めないまま制作物が増えると、名刺、チラシ、サイト、SNSでばらばらの見た目になります。
この記事では両者の違いを実務の観点で整理し、規模と制作物の数から必要な範囲を決める方法、着手の順序、そして作りすぎて使われなくなる典型例を扱います。
この記事でわかること
・CIとVIの違いを実務の観点で整理
・自社に必要な範囲を決める判断軸
・規模別の必要な範囲
・着手の順序
・作りすぎて使われなくなる典型例
・運用に乗せるための最低条件
違いは対象の範囲
| CI | VI | |
|---|---|---|
| 対象 | 企業のあり方全体 | 見た目に関わる部分 |
| 含むもの | 理念、行動指針、事業領域、伝えたい価値 | ロゴ、配色、書体、写真の方針、レイアウト |
| 決める人 | 経営層 | 経営層+制作の担当 |
| 変わる頻度 | 低い。事業の転換時 | 中。制作物が増えるたびに追記 |
| 中小企業での実態 | 文書化されていないことが多い | ロゴだけ決まっていることが多い |
実務での関係は単純です。CIが「何を伝えるか」、VIが「どう見せるか」。したがって、CIが決まっていない状態でVIを作ると、判断の基準がないまま見た目だけが決まります。
ただし、中小企業ではCIを完全な形で文書化する必要はありません。伝えたい価値が1文で言えて、社内で共有されていれば、実務上は機能します。
CIは何を伝えるか、VIはどう見せるか。
CIは分厚い文書でなくてよい。1文で言えて共有されていれば足りる。
必要な範囲を決める判断軸
決めるべき範囲は、企業の規模ではなく制作物の数と、それを作る人の数で決まります。
| 状況 | 必要な範囲 | 理由 |
|---|---|---|
| 制作物が名刺とサイトのみ/作る人が1社 | ロゴと配色だけ | 都度の判断で揃う |
| 制作物が5種類以上/作る人が1〜2社 | ロゴ、配色、書体、余白の基準 | 作る人が変わっても再現できる必要がある |
| 現場や店舗が独自に作る | 上記+使用例と禁止例 | 判断できない人が使うため、例が要る |
| 複数拠点・複数事業 | 上記+関係の示し方 | 親子関係やブランドの並びを決める |
| 外部への露出が多い(広告、展示会) | 上記+写真とトーンの方針 | 素材の選定基準が必要 |
3行目が分岐点です。デザインの判断ができない人が制作物を作る状況になったら、規定が必要になります。逆に、制作を1社にまとめて依頼できているなら、詳細な規定がなくても揃います。
決めるべき項目の具体はブランドガイドラインの作り方|どこまで決めれば運用が回るかで扱っています。
着手の順序
- 伝えたい価値を1文にする:CIの中核。ここが決まらないと基準がない
- 対象顧客を決める:誰に伝えるか
- ロゴを決める(または見直す):識別の中心
- 配色と書体を決める:使う色と書体を限定する
- 余白と配置の基準を決める:ここまでで大半の制作物が揃う
- 使用例と禁止例を作る:作る人が増えたら追加する
多くの中小企業は5番目までで十分です。6番目は、現場や外部の複数社が制作物を作るようになってから追加してください。
1番目が抽象的なままだと、以降のすべての判断に基準がなくなります。「地域に貢献する」ではなく、誰にどんな価値を提供するのかを具体で書いてください。整理の方法はブランドコンセプトの作り方|すべてのデザインの軸になる考え方を参照してください。
作りすぎて使われなくなる典型例
| 作ったもの | 使われない理由 | 代わりにすべきこと |
|---|---|---|
| 数十ページの規定書 | 読まれない。探せない | 1〜2ページの早見表を別に作る |
| 色の指定が細かすぎる | 現場で再現できない | 主要な色を3〜5色に絞る |
| 書体が有償で数種類 | 社内のパソコンに入っていない | 代替書体を決めておく |
| 理念の文章が長い | 覚えられない | 1文に圧縮したものを併記する |
| 禁止例だけが並ぶ | 何をすればよいか分からない | 使用例を先に置く |
1行目は最も多く見られます。作った時点では完成度が高くても、使う場面で開かれなければ意味がありません。詳細な規定書とは別に、実務で使う早見表を用意してください。
3行目は運用で必ず起きます。指定した書体が社内のパソコンに入っていなければ、代わりの書体が使われます。先に代替を決めておけば、ばらつきを抑えられます。
運用に乗せるための最低条件
- 1〜2ページの早見表がある:ロゴ、色、書体、余白の基準
- データの置き場所が決まっている:誰でも取り出せる
- 代替の指定がある:書体や色が使えない場合
- 判断に迷ったときの相談先が決まっている:社内の誰か
- 更新の担当が決まっている:制作物が増えたときに追記する人
2番目が実は最も効きます。ロゴのデータがどこにあるか分からず、画面のスクリーンショットを使う。この状態は珍しくありません。共有の場所を決めて、拡大しても劣化しない形式を置いてください。
規定書より、1〜2ページの早見表とデータの置き場所。
この2つがないと、どれだけ立派に作っても運用されない。
よくある失敗
大企業の事例を参照して範囲を決める
中小企業には過剰になります。制作物の数と、作る人の数で決めてください。
CIを決めずにVIから作る
見た目の判断に基準がなくなります。伝えたい価値を1文にしてから進めてください。
規定書を作って満足する
使う場面で開かれなければ意味がありません。早見表を別に用意してください。
有償の書体だけを指定する
社内で再現できず、別の書体が使われます。代替を決めておいてください。
ロゴのデータの置き場所を決めない
スクリーンショットが使われ、画質が荒れます。共有の場所を決めてください。
よくある質問
CIとVIはどちらから作るべきですか
CIが先です。ただし完全な文書化は不要で、伝えたい価値が1文で言えて社内で共有されていれば、VIの判断基準として機能します。
ロゴだけ決まっている状態は問題ですか
制作物が少なく、制作を1社にまとめているなら問題ありません。制作物が増える、または作る人が増える段階で、配色と書体を追加してください。
既存のロゴを変えずにVIを整えられますか
できます。むしろロゴを変えずに配色と書体を揃えるだけで、印象は大きく整います。ロゴを変えるかどうかの判断はロゴをリニューアルすべきタイミング|変える理由になるものと、ならないものを参照してください。
費用はどのくらいかかりますか
範囲によって大きく変わります。ロゴと配色だけか、使用例まで含むかで数倍の差が出ます。先に必要な範囲を決めてから見積を取ると、比較が成立します。
社名や事業内容が変わる予定がある場合は
先に事業側の方向を固めてください。CIが変わるとVIも作り直しになります。進め方はリブランディングの進め方|既存顧客を離さないための手順で扱っています。
まとめ
CIとVIは、言葉の定義より自社にどこまで必要かの判断が実務です。CIが「何を伝えるか」、VIが「どう見せるか」。したがってCIが決まっていない状態でVIを作ると、見た目の判断に基準がないまま進むことになります。
必要な範囲は企業の規模ではなく、制作物の数と、それを作る人の数で決まります。制作を1社にまとめて依頼できているなら、ロゴと配色だけでも揃います。分岐点は、デザインの判断ができない人が制作物を作る状況になったときです。この段階で使用例と禁止例が必要になります。
そして多くの中小企業は、伝えたい価値の1文、対象顧客、ロゴ、配色と書体、余白の基準まで決めれば十分です。分厚い規定書を作っても、使う場面で開かれなければ意味がありません。1〜2ページの早見表と、データの置き場所。この2つがないと、どれだけ立派に作っても運用されません。
当社ではデザイン制作において、必要な範囲の見極めからご相談を承っています。自社の状況を整理したい場合は、資料をダウンロードのうえご活用ください。