ペルソナ設計は、Web制作の初期工程として定番になっています。一方で、作ったものの一度も参照されないまま終わるケースも多くあります。「35歳、既婚、趣味はキャンプ」といった人物像を作っても、サイトの構成やコピーの判断には使えないためです。
使えるペルソナと使えないペルソナの違いは、精緻さではありません。意思決定に使える情報が入っているかどうかです。年齢や趣味ではなく、「何に困っていて」「何を比較し」「何が決め手になるか」が書かれていれば、ページの構成もコピーも決められます。
この記事では、Webデザインで実際に使えるペルソナの項目、材料の集め方、作成手順、そして運用への落とし込みまでを解説します。
この記事でわかること
・使えるペルソナと使えないペルソナの違い
・サイト設計に必要な7項目と、不要な項目
・推測ではなく実データからペルソナを作る手順
・ペルソナをサイト構成・コピー・写真選定に落とし込む方法
・作るべきでないケースと、代わりにやること
結論:属性ではなく「判断のプロセス」を書く
ペルソナが機能しないのは、書かれている情報が意思決定に接続しないためです。次の対比が分かりやすいと思います。
| 使えないペルソナ | 使えるペルソナ |
|---|---|
| 35歳・男性・既婚・年収600万円 | 築15年の戸建てに住み、冬の寒さと光熱費に不満がある |
| 趣味はキャンプ、休日は家族と過ごす | 妻から「窓が寒い」と言われ、自分で調べ始めた段階 |
| 慎重な性格 | 工事中に家にいる必要があるか、何日かかるかが気になっている |
| ITリテラシーは中程度 | ネットで相場を調べ、地元業者3社に相見積もりを取るつもり |
| サービスに関心がある | 補助金が使えるかどうかで実施時期を決めようとしている |
右側があれば、次の判断ができます。ファーストビューに何を書くか、料金をどこまで開示するか、どの不安をFAQで解消するか、どんな写真を載せるか。左側からは、これらのどれも決まりません。
ペルソナに書くべきは属性ではなく、課題・比較行動・不安・決め手です。
「この人物像から、ページの構成を決められるか」が唯一の判定基準です。
サイト設計に必要な7項目
| 項目 | 書く内容 | どの設計判断に使うか |
|---|---|---|
| 1. 抱えている課題 | 何に困っているか。本人の言葉で | ファーストビューの見出し、課題提起ブロック |
| 2. きっかけ | なぜ今、調べ始めたか | 訴求の切り口、季節性のある施策 |
| 3. 検討段階 | 情報収集中か、比較中か、決定直前か | ページの深さ、CTAの種類(資料請求か申込か) |
| 4. 比較対象 | 他社、他手段、何もしないという選択肢 | 差別化ブロックで何と比べるか |
| 5. 不安・懸念 | 何が引っかかって決められないか | FAQ、保証、実績の見せ方 |
| 6. 決め手 | 最終的に何で決めるか(価格、対応、実績、近さ) | 優先して見せる情報の順序 |
| 7. 情報源 | どこで調べ、誰に相談するか | 流入経路の設計、口コミ施策の要否 |
年齢や家族構成は、上の7項目に影響する場合だけ書けば十分です。「書いたが使わなかった項目」は、次回から削ってください。
材料は推測ではなく実データから集める
会議室でペルソナを考えると、社内の願望が混ざります。次の順で集めると、実際の顧客像に近づきます。
| 材料 | 取得方法 | 分かること | コスト |
|---|---|---|---|
| 既存顧客への質問 | 受注済みの5〜10人に「なぜ当社を選んだか」を聞く | 決め手、比較対象 | ほぼゼロ |
| 問い合わせ・電話の内容 | 受付記録、フォームの自由記述 | 不安・懸念、検討段階 | ほぼゼロ |
| 検索語句 | Search Console、Google広告の検索語句レポート | 課題の言語化、情報収集の段階 | ほぼゼロ |
| 失注理由 | 商談記録 | 決め手にならなかった要素 | ほぼゼロ |
| 営業・接客スタッフへのヒアリング | 対面で話している人が最も情報を持つ | きっかけ、不安 | ほぼゼロ |
| ユーザーインタビュー | 対象者に1時間程度の聞き取り | 深い動機、言語化されていない不満 | 時間・謝礼 |
上5つは費用がかかりません。まずこの5つで作り、それでも仮説が割れる部分だけインタビューで確かめるのが効率的です。最初からインタビューを企画すると、着手までに時間がかかります。
顧客に聞く3つの質問
難しい設計は不要です。受注後や納品後に、この3つを聞くだけで材料が集まります。
- 「何がきっかけで検討を始めましたか」→ きっかけ・課題
- 「他にどこと比べましたか。何が違いましたか」→ 比較対象・決め手
- 「決める前に、何が一番気になっていましたか」→ 不安・懸念
5人聞くと共通点が見えます。10人聞くと確信が持てます。この作業は、どんな調査手法より費用対効果が高いのが実務の実感です。
作成手順
- 材料を集める:上記の5つから、1〜2週間分
- 共通するパターンを抜き出す:課題・きっかけ・不安・決め手ごとに分類する
- 1〜3人分に絞る:多すぎると使えない。主要な顧客像に集約する
- 7項目のフォーマットに落とす:本人の言葉をそのまま引用する
- 設計判断に紐づける:各項目に「だからサイトでは◯◯する」を1行添える
- 公開後に検証する:想定した不安がFAQで解消されているか、離脱箇所と照合する
5番目が最も重要で、最も省略されがちな工程です。ペルソナと設計判断を1対1で紐づけておくと、後から「なぜこの構成なのか」を説明できます。逆にこれがないと、ペルソナは資料として保管されるだけになります。
複数ペルソナを作る場合
顧客層が明確に分かれている場合(例:個人と法人、新規と既存)は分けます。ただし、3人を超えると設計判断で優先順位が付かなくなります。分けるなら、ページやサイトも分ける前提で考えてください。
設計への落とし込み
| ペルソナの項目 | サイトでの反映先 |
|---|---|
| 抱えている課題 | ファーストビューの見出し、課題提起ブロックの文言 |
| きっかけ | 広告の訴求軸、季節ごとの打ち出し |
| 検討段階 | 主CTAの選択(検討初期なら資料請求、直前なら見積依頼) |
| 比較対象 | 差別化ブロックで比較する相手(他社か、自分でやる選択肢か) |
| 不安・懸念 | FAQの項目、保証・実績の掲載位置 |
| 決め手 | 情報の優先順位。決め手が「近さ」なら対応エリアを上部に |
| 情報源 | 流入設計。口コミで決めるなら、口コミ獲得の優先度を上げる |
この表を作ると、ペルソナが「資料」から「設計の根拠」に変わります。ファーストビューの具体的な作り方はファーストビュー設計の重要性|離脱を防ぐ最初の3秒の作り方で解説しています。
ペルソナを作るべきでないケース
| 状況 | 代わりにやること |
|---|---|
| 既存顧客が0〜数件しかいない | ペルソナより、検索語句からの需要確認を先に行う |
| 顧客層が明確に1つで、社内の認識も揃っている | 7項目を箇条書きで共有するだけで足りる |
| 作っても参照する場面がない(更新頻度が低いサイト) | FAQと問い合わせ内容の整理を優先する |
| 社内で「理想の顧客」を議論して決めようとしている | 実データを集めるまで着手しない |
| 納期が迫っている | 既存顧客3人への質問だけ実施し、簡易版で進める |
4番目は特に注意が必要です。「こういうお客様に来てほしい」は願望であり、ペルソナではありません。願望から設計すると、実際の訪問者と噛み合わないサイトができます。理想の顧客層を変えたい場合は、それは集客戦略の問題として別に扱ってください。
よくある質問
Q. ペルソナに写真や名前は必要ですか?
関係者の間でイメージを共有しやすくなる効果はありますが、設計判断には影響しません。時間をかける価値があるのは、課題・不安・決め手のほうです。
Q. 何人分作ればよいですか?
1〜3人が実務的な範囲です。それ以上作ると、設計時に「どのペルソナを優先するか」で判断が止まります。顧客層が明確に分かれるなら、ペルソナではなくページを分けることを検討してください。
Q. どのくらいの頻度で見直しますか?
年1回、または顧客層が変わったタイミングです。あわせて、問い合わせ内容と検索語句は月次で確認しておくと、変化に早く気づけます。
Q. BtoBでも同じ作り方でよいですか?
基本は同じですが、BtoBでは意思決定者と担当者が別であることが多いため、「情報を集める人」と「決裁する人」の2軸で整理してください。サイトは前者向け、資料は後者向けという設計になります。
まとめ
ペルソナ設計の目的は、人物像を精緻に描くことではなく、サイトの構成やコピーを決められる状態を作ることです。判定基準は1つ、「この人物像から、ページの構成を決められるか」です。
書くべきは、課題、きっかけ、検討段階、比較対象、不安、決め手、情報源の7項目です。年齢や趣味は、これらに影響する場合だけで構いません。
材料は推測ではなく、既存顧客への3つの質問、問い合わせ内容、検索語句、失注理由、接客スタッフのヒアリングから集めてください。5つとも費用がかかりません。そして各項目に「だからサイトでは◯◯する」を1行添えることで、ペルソナは設計の根拠になります。
「ペルソナを作ったが使っていない」「サイトの構成を何を根拠に決めればよいか分からない」といった状態にある場合は、人物像の精緻化ではなく、既存顧客への聞き取りから始めてください。
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