ポスターの制作でよくある進み方は、まずデザイン案を出し、パソコンの画面上で「かっこいいかどうか」を確認し、印刷して掲示する、という流れです。この順序だと、貼った当日に読めないことが判明します。
理由ははっきりしています。ポスターは手に取ってもらえないためです。チラシやパンフレットは相手が持ち、目から30センチほどの距離で読みます。ポスターは相手が近づいてくれるとは限らず、3メートル先を歩きながら見られることもあれば、電車を待つ数分間ずっと眺められることもあります。距離と時間が固定されていない点が、他の印刷物との決定的な違いです。
この記事では、掲示場所から情報量と文字サイズを逆算する手順、1枚で伝える内容の絞り方、QRコードを置く高さ、そして差し替えを前提にした作り方を整理します。
この記事でわかること
・ポスターは手に取られない。距離と滞在時間が場所ごとに変わる
・文字サイズは好みではなく、見る距離から逆算して決める
・掲示場所の滞在時間が、載せられる情報量の上限を決める
・1枚に複数の目的を入れると、どれも達成できなくなる
・QRコードは目線ではなく、スマホを構えられる高さに置く
・会期や価格は差し替えられる位置に分けておく

ポスターとチラシは前提が違う
同じ紙の印刷物でも、設計の出発点がまったく違います。チラシの考え方をそのまま持ち込むと、情報量が多すぎて何も伝わらないポスターになります。
| 項目 | チラシ | ポスター |
|---|---|---|
| 見る距離 | 約30センチで固定 | 1メートルから10メートル。場所で変わる |
| 持ち帰り | できる | できない。その場で完結させる必要がある |
| 読む時間 | 数秒。捨てるかどうかを先に判断される | 場所による。数秒から数分 |
| 同時に見る人数 | 1人 | 複数。近づけない位置から見る人がいる |
| 情報量の上限 | 裏面まで使える | 1画面ぶん。増やすと読まれる要素が減る |
チラシは手に取られた時点で勝負が始まりますが、ポスターは足を止めさせるところから設計が必要です。チラシ側の考え方は反響が出るチラシデザインの作り方|捨てられる前の2秒で決まることで扱っています。
ポスターは手に取られない。距離と時間が固定されていない。
チラシの情報量をそのまま持ち込むと読まれない。
掲示場所を先に確定させる
デザインに入る前に決めるのは、サイズでも色でもなくどこに貼るかです。場所が決まれば、見る距離と滞在時間が決まり、そこから情報量と文字サイズが決まります。
| 掲示場所 | 見る距離 | 滞在時間 | 載せられる情報 |
|---|---|---|---|
| 駅のホーム、待合スペース | 2から5メートル | 数分 | 見出し+補足3行程度まで |
| 通路、エスカレーター横 | 1から3メートル | 数秒 | 見出しと図版のみ |
| 店内のレジ横、順番待ちの列 | 0.5から1.5メートル | 数分 | 細かい条件や価格まで読める |
| 屋外の壁面、看板 | 5から20メートル | 数秒 | 文字は最小限。ロゴと1フレーズ |
| 社内の掲示板 | 1メートル前後 | 任意 | 近づいて読む前提で組める |
最も失敗が多いのは2行目です。通路に貼るポスターに、駅の待合と同じ情報量を入れてしまう。歩いている人は立ち止まらないため、見出し以外は物理的に読めません。
場所が複数ある場合、1種類で兼用しないでください。最も条件の厳しい場所に合わせると他が情報不足になり、最も条件の緩い場所に合わせると厳しい場所で読めません。見出しと配色を共通にしたうえで、情報量だけを2種類作るほうが確実です。
場所が決まれば距離と滞在時間が決まり、情報量が決まる。
条件の違う場所を1種類で兼用しない。情報量だけ分ける。
文字サイズは距離から逆算する
画面上で見て「大きすぎる」と感じるサイズが、掲示すると適正であることがほとんどです。判断を感覚に任せず、確認の手順を決めてください。
最も確実なのは原寸で出力して実際の距離から見ることですが、B1やA0では現実的でない場合があります。その場合は次の方法で代替できます。
- ポスターの実寸の幅と、画面に表示している幅の比率を出す(例:B1の幅728ミリを画面上で182ミリ表示なら4分の1)
- 想定する視認距離を同じ比率で割る(3メートルなら75センチ)
- その距離まで画面から離れて、読めるかどうかを確認する
- A4で縮小印刷して同じ計算をしてもよい
文字の読みやすさは大きさだけで決まりません。背景とのコントラスト、書体の線の太さ、掲示場所の明るさが同時に効きます。細い明朝体を薄い色で置くと、サイズが足りていても遠くからは消えます。数値の基準は配色のコントラスト比の基準|WCAGの数値と、実務での使い方が参考になります。
要素ごとの大小の差については、ポスターはWebより差を大きく取ります。遠くから見たときに、どこを最初に読めばよいかが一目で分かる必要があるためです。差の付け方の考え方はデザインのジャンプ率とは|差をつける幅で印象と伝わり方が変わる、本文の可読性の数値は読みやすい文字サイズの決め方|サイズ・行間・1行の文字数を数値で揃えるで扱っています。
実寸出力が難しければ、縮小率と同じ比率で距離を縮めて確認する。
サイズが足りていても、細い書体と低いコントラストでは遠くから消える。
1枚で伝えることを1つに絞る
ポスターに複数の目的を入れると、どれも達成されません。採用も、商品も、イベントも載せた1枚は、見る人にとって「何かの案内」以上の意味を持ちません。
絞るときは、次の順で決めます。
- 誰に向けたものかを1つに決める(通行人か、来店客か、求職者か)
- その人に取ってほしい行動を1つに決める(覚える、調べる、来る、応募する)
- 行動に必要な最小限の情報だけを残す
- 残りは、掲示場所に置く別の媒体か、遷移先のページに移す
4番目が要点です。削った情報は捨てるのではなく、移します。ポスターで足を止めさせ、詳細は手元の端末で読んでもらう。この分担ができると、ポスター側は大胆に情報を減らせます。遷移先で最初に見える画面の作り方はファーストビュー設計の重要性|離脱を防ぐ最初の3秒の作り方で扱っています。
対象と行動を1つずつに決めてから、必要な情報だけを残す。
削った情報は捨てず、遷移先へ移す。
構図の型と使い分け
型を機械的に当てはめる必要はありませんが、掲示場所の条件によって向く構図が変わります。
| 構図 | 向く場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 画面の大半を1枚の写真にする | 遠距離、短い滞在時間 | 文字を写真の上に置くと読めなくなりやすい |
| 上半分に見出し、下半分に情報 | 中距離、数分の滞在 | 情報側が細かくなりすぎないよう行数を制限する |
| 中央に大きな文字だけ | 屋外、超遠距離 | 1フレーズで意味が完結する言葉が必要 |
| 余白を大きく取り、中央に小さくまとめる | 近距離、店内 | 遠くからは何も見えない。場所を限定する |
1行目は事故が起きやすい構図です。写真の上に文字を重ねると、写真の明暗によって読めたり読めなかったりします。帯を敷く、文字の下だけ暗くする、写真側に文字を置く余白を作って撮影する、といった対応が必要です。撮影段階で決めておく事項はWeb用写真のディレクション|撮影前に決めるべきことと当日の進め方の考え方が印刷物にも使えます。
構図は好みではなく、距離と滞在時間で選ぶ。
写真の上に文字を重ねる構図は、撮影段階から余白を作っておく。
コピーは説明ではなく、足を止める役割
ポスターの見出しに求められるのは、正確な説明ではなく、対象者に自分ごとだと気づかせることです。
| よくある見出し | 問題 | 書き換えの方向 |
|---|---|---|
| 新サービス開始のお知らせ | 誰向けか分からない。全員が通り過ぎる | 対象者を名指しする |
| 安心・安全・高品質 | 他社も同じことを書いている | 検証できる事実を1つ入れる |
| 創業50周年 | 見る人の利益になっていない | その結果、相手に何があるかを書く |
| スタッフ募集 | 条件が分からず、比較の対象にならない | 働く条件のうち差がある1点を出す |
対象者を名指しすると、対象外の人は読まなくなります。これは損失ではありません。ポスターの目的は多くの人に見られることではなく、対象者に届くことです。バナーやWeb広告でも同じ構造が働きます。考え方はバナーデザインの作り方|クリックされる設計と評価の仕方で扱っています。
見出しの役割は説明ではなく、対象者に自分ごとだと気づかせること。
対象を名指しして対象外に読まれなくなるのは、想定どおりの動作。
QRコードと次の行動
ポスターからWebへつなぐ場合、置く位置の高さが読み取れるかどうかを決めます。目線の高さに置くと、スマホを構えたときに腕が上がりきらず、読み取りづらくなります。
- 床から120センチから150センチ程度の、手を伸ばさずスマホを向けられる高さに置く
- コードの周囲に余白を確保する(枠に接していると認識されにくい)
- 遷移先を専用のURLにして、どのポスターから来たかを記録する
- コードの横に、何が見られるかを1行で書く(「読み取ってください」だけでは動機にならない)
- 遠距離用のポスターにはQRコードを載せない。近づけない位置では機能しない
3番目を省くと効果が測れません。掲示ごとに異なるURLか計測用のパラメータを付けておけば、どの場所のポスターが機能したかが分かり、次回の掲示先を決められます。記録方法はUTMパラメータの設計と命名規則|流入元を正しく計測する方法を参照してください。
QRコードはスマホを構えられる高さに置く。目線の高さは高すぎる。
掲示場所ごとにURLを分けないと、効果を測れない。
印刷と差し替えを前提に作る
ポスターは同じデザインを何度か使い回すことが前提になります。会期、価格、電話番号だけが変わるケースが繰り返し発生します。
- 変わる情報(日付、価格、担当、期間)を1か所にまとめて配置する
- その領域は、文字数が増減してもレイアウトが崩れない余白を持たせる
- 配色とロゴの扱いは、社内で共通のルールに従う
- 印刷用のデータと、掲示場所ごとのサイズ違いを同じ場所で管理する
3番目については、複数の制作物を扱う場合ほど効いてきます。誰が作っても同じ見え方になる状態を作る方法はブランドガイドラインの作り方|どこまで決めれば運用が回るかで扱っています。
印刷を伴う制作は、Web制作と進め方が変わります。入稿後は修正ができず、色も画面とは異なって出ます。初めて外注する場合に決めておくことはグラフィックデザインを外注する流れ|初めての依頼で決めておくこと、印刷が絡む場合の違いは商品パッケージのデザインを依頼する流れ|印刷が絡むと何が変わるかで整理しています。
変わる情報を1か所に集めておくと、次回は差し替えだけで済む。
入稿後は修正できない。画面の色と印刷の色は一致しない。
よくある失敗
画面上だけで文字サイズを判断する
画面で大きすぎると感じるサイズが、掲示すると適正であることがほとんどです。縮小率と同じ比率で距離を縮めて確認してください。
チラシと同じ情報量を入れる
ポスターは手に取られません。通路に貼るものに条件や注意書きまで入れると、見出しごと読まれなくなります。
1枚に複数の目的を入れる
採用と商品とイベントを同時に載せると、見る人にとっては「何かの案内」になります。対象と行動を1つずつに絞ってください。
写真の上に文字を重ねる
写真の明暗によって読めたり読めなかったりします。帯を敷くか、撮影段階で文字を置く余白を作っておいてください。
QRコードを高い位置に置く
目線の高さはスマホを構えるには高すぎます。床から120センチから150センチ程度が読み取りやすい範囲です。
掲示場所ごとにURLを分けない
どの場所が機能したか分からず、次回も同じ配分で掲示することになります。分けておけば掲示先を絞れます。
よくある質問
ポスターのサイズはどう決めればよいですか
掲示できる枠の実寸が先に決まっている場合が多いため、まず現地を確認してください。自由に選べる場合は、見る距離が遠いほど大きくします。ただし大きくしても情報量は増やさず、文字を大きくするために使ってください。
目を引く色はありますか
周囲との差で決まるため、単独の色では決まりません。掲示場所の壁の色、隣に貼られる他のポスター、照明の色を確認したうえで判断します。掲示場所の写真を撮り、その上にデザインを重ねて確認するのが確実です。
文字は縦組みと横組みのどちらがよいですか
遠くから短時間で読ませる場合は横組みが無難です。縦組みは日本語として自然ですが、視線の移動が長くなり、歩きながら読む場面には向きません。店内など滞在時間が長い場所では縦組みも成立します。
デザインを社内で作るか、外注するかの判断は
掲示期間が短く、差し替えが頻繁なものは社内で作れる仕組みにしておくほうが早く回ります。ブランドの印象を左右する常設のものや、大判で印刷費が高いものは外注が向きます。判断軸はデザイン制作会社の選び方を参照してください。
効果はどう測ればよいですか
掲示場所ごとにQRコードの遷移先を分けるのが最も確実です。QRを使わない場合は、掲示期間中の来店数や問い合わせ数を掲示前と比較します。ただし他の施策と重なると切り分けられないため、掲示の開始日を他の施策とずらしてください。
まとめ
ポスターがチラシと違うのは、手に取ってもらえない点です。見る距離も滞在時間も場所によって変わり、それが載せられる情報量を決めます。だからデザインの前に決めるのは、サイズでも配色でもなく掲示場所です。駅の待合と通路では、同じサイズでも入れられる情報がまったく違います。
文字サイズは感覚で判断せず、距離から逆算してください。原寸出力が難しければ、画面表示の縮小率と同じ比率で視認距離を縮めて確認できます。ただし大きさだけでは決まりません。コントラストと書体の線の太さが足りなければ、サイズが十分でも遠くからは消えます。
1枚で伝えることは1つに絞ります。対象者を1つ、取ってほしい行動を1つ決め、そこに必要な情報だけを残す。削った情報は捨てるのではなく、遷移先のページへ移します。QRコードは目線の高さではなく、スマホを構えられる高さに置き、掲示場所ごとにURLを分けておけば、次回どこに貼るべきかが分かります。
当社ではデザイン制作でポスターや掲示物の制作を、ホームページ制作で遷移先ページの設計をあわせてご相談いただけます。掲示場所が複数ある場合の使い分けからご相談ください。