「広告予算は売上の何%が適正か」という問いには、一般的な目安が存在します。しかしその目安を自社に当てはめると、多くの場合で判断を誤ります。
理由は2つあります。1つは、売上に対する比率は粗利率を無視していること。もう1つは、比率が「使える上限」を示すだけで、実際に使い切れるかは商圏の需要で決まることです。
この記事では、売上比率を出発点としながら、粗利と需要の両面から適正予算を決める手順を解説します。
この記事でわかること
・売上比率で予算を決めると危険な理由
・粗利から逆算する計算手順
・使い切れる上限(需要の天井)の確認方法
・事業フェーズによる比率の変え方
・予算を増減させる判断基準
売上比率で決めると何が起きるか
同じ売上でも、事業によって広告に使える金額はまったく違います。
| A社 | B社 | |
|---|---|---|
| 月商 | 1,000万円 | 1,000万円 |
| 粗利率 | 20% | 60% |
| 粗利 | 200万円 | 600万円 |
| 売上の5%を広告費 | 50万円 | 50万円 |
| 粗利に占める割合 | 25% | 8.3% |
※説明のための例です。
同じ「売上の5%」でも、A社にとっては粗利の4分の1、B社にとっては1割未満です。A社がこの水準を続けると、人件費や家賃を差し引いた後に何も残りません。
売上比率が意味を持つのは、同業種・同程度の粗利率の企業と比べるときだけです。異なる業態の目安を持ち込むと、必ずずれます。
広告費を「売上の何%」で考えるのをやめ、「粗利の何%」に置き換えてください。
この1点だけで、判断の精度が大きく変わります。
粗利から逆算する手順
- CV1件あたりの粗利を出す:平均受注単価 × 粗利率 × 成約率
- 許容できるCPAを決める:CV1件の粗利のうち、広告に使ってよい割合
- 必要なCV数を決める:月に何件の問い合わせ・来店が必要か
- 予算 = 許容CPA × 必要CV数
- その予算を使い切れるか確認する(次項)
ステップ1〜2の具体
| 項目 | 計算 | 例 |
|---|---|---|
| 平均受注単価 | — | 30万円 |
| 粗利率 | — | 40% |
| 1件の粗利 | 30万 × 40% | 12万円 |
| 問い合わせからの成約率 | — | 25% |
| CV1件あたりの粗利 | 12万 × 25% | 3万円 |
| 許容CPA(粗利の1/3) | 3万 ÷ 3 | 1万円 |
※上記は計算方法を示すための例です。必ず自社の数字で算出してください。
「粗利の何割まで広告に使うか」の判断が、実質的な意思決定です。
| 許容する割合 | 意味 | 向いている状況 |
|---|---|---|
| 粗利の20〜30% | 安全圏。残りで固定費と利益を確保 | 安定期、既存事業 |
| 粗利の40〜50% | 積極的な獲得。利益は薄い | 立ち上げ期、シェア拡大 |
| 粗利の50%超 | 初回赤字を許容 | リピート・継続がある商材のみ |
3番目を選べるのは、リピートや継続契約がある事業だけです。単発の取引で終わる商材で初回赤字を出すと、売るほど損をします。
リピートを含めて評価する場合は、CV1件の粗利ではなく顧客生涯価値(LTV)を使います。ただしLTVは実績から算出できる場合に限ります。推測値で計算すると、根拠のない予算になります。
使い切れる上限を確認する
粗利から算出した予算が、そのまま使えるとは限りません。商圏の検索需要という別の天井があります。
| 天井 | 計算 | 決まるもの |
|---|---|---|
| 経済性の天井 | 必要CV数 × 許容CPA | 事業として出せる上限 |
| 需要の天井 | 商圏の月間検索数 × クリック率 × クリック単価 | 実際に使い切れる上限 |
実際の予算は、この2つの小さいほうです。商圏が狭い店舗ビジネスでは、後者が先に頭打ちになります。予算を積んでも、使い切れるクリックが存在しません。
この計算の詳細は店舗集客のGoogle広告費用相場は?月額予算の決め方を計算式で解説で解説しています。
需要の天井に当たっているサイン
- インプレッションシェアが高止まりしている:取れる表示をほぼ取っている
- 予算を増やしてもクリック数が増えない
- 予算を増やすとCPAが急激に悪化する:関連の薄い語まで拾い始めている
- 検索語句レポートに対象外の語が増える
この状態で予算を増やしても、無駄が増えるだけです。次に取るべきは、媒体を増やすか、需要そのものを作る施策に移ることです。
事業フェーズによる考え方
| フェーズ | 予算の考え方 | 見る指標 |
|---|---|---|
| 開業・立ち上げ期 | 固定費として先に確保する。粗利からの逆算が使えない | CV数、認知 |
| 成長期 | 粗利の40〜50%まで積極投下 | CV数、CPA |
| 安定期 | 粗利の20〜30%。効率を優先 | CPA、粗利額 |
| 需要の天井に到達 | 増額をやめ、媒体追加か認知施策へ | インプレッションシェア |
| 縮小・見直し期 | CPAの悪い順に削る | CV別のCPA |
立ち上げ期は、粗利からの逆算が機能しません。成約率も平均単価も実績がないためです。この段階では「いくらまでなら払えるか」ではなく「いくらなら継続できるか」で決めてください。
開業期の予算設計は新規開業時のWeb広告費用の目安|業種別の立ち上げ期予算プランを参照してください。
予算を増減させる判断基準
増やしてよい条件
- CPAが許容範囲内で安定している:単月ではなく3か月程度
- インプレッションシェアに余地がある:まだ取れる表示がある
- 増えたCVに対応できる体制がある:初回対応が遅れないか
- 成約率が落ちていない:問い合わせの質が保たれているか
3番目を確認せずに増額すると、費用対効果はむしろ悪化します。問い合わせが増えても初回対応が遅れれば、成約率が落ちます。獲得後の体制については問い合わせ後の歩留まりを改善する|リード管理の始め方を参照してください。
減らすべき条件
| 状況 | 対処 | 注意 |
|---|---|---|
| CPAが目標を継続的に超過 | キーワード・配信面別に削る | 一律削減はしない |
| 問い合わせの質が落ちている | ターゲティング・訴求を見直す | 予算より設定の問題 |
| 対応しきれていない | 一時的に抑える | 取りこぼしのほうが損失 |
| 季節的に需要がない | 時期を絞る | 年間で配分し直す |
| 資金繰りの都合 | CPAの悪い順に削る | 全体を一律に削らない |
「一律◯%削減」が最も損失の大きい方法です。成果の出ている配信まで縮小することになります。削るなら、CV別・キーワード別のCPAを見て、悪い順に止めてください。
予算の内訳を分ける
広告費を1つの数字として扱うと、テストができなくなります。
| 区分 | 割合の目安 | 用途 |
|---|---|---|
| 本予算 | 70〜85% | 実績のあるキャンペーン |
| テスト予算 | 15〜30% | 新しい媒体・訴求・ターゲティング |
| (別枠)制作費 | — | クリエイティブ、LP、撮影 |
テスト予算を確保しないと、既存の施策が頭打ちになったときに次の手がありません。ただし、テスト予算はCPAの評価対象から外して管理してください。混ぜると、全体のCPAが悪化したように見えます。
配分の考え方は複数媒体への広告予算配分の考え方|テスト予算と本予算の分け方で解説しています。
よくある失敗
失敗1:売上比率だけで決める
粗利率が違えば、同じ比率でも意味がまったく違います。粗利で考えてください。
失敗2:他業種の目安を持ち込む
単価・粗利率・検討期間が違えば、比較になりません。
失敗3:需要の天井を確認せずに増額する
使い切れないクリックは存在しません。CPAが悪化するだけです。
失敗4:対応体制を確認せずに増額する
初回対応が遅れ、成約率が落ちます。
失敗5:一律で削減する
成果の出ている配信まで縮小します。CPAの悪い順に削ってください。
よくある質問
Q. 売上の何%という目安は使えないのですか?
出発点としては使えますが、判断の根拠にはなりません。粗利率が異なれば、同じ比率でも事業への負荷がまったく違います。まず粗利に置き換えてください。
Q. 粗利率がわからない場合はどうしますか?
売上から仕入・外注費・材料費など変動費を引いた額が粗利です。正確な数字がなくても概算で構いません。売上比率で考えるより、はるかに実態に近づきます。
Q. 許容CPAは粗利の何割が適正ですか?
事業フェーズによります。安定期であれば粗利の20〜30%程度が目安になりますが、これも一律の正解ではありません。固定費を差し引いた後に利益が残るかで判断してください。
Q. 予算を増やせばCV数は比例して増えますか?
増えません。商圏の検索需要には上限があり、そこに到達するとCPAが悪化します。インプレッションシェアを確認してください。
Q. 複数媒体に出している場合の考え方は?
全体の予算枠を粗利から決め、その中で媒体別に配分します。媒体別のCPAだけで判断すると、認知に寄与している媒体が過小評価されます。全体のCV数とCPAで見てください。
まとめ
広告予算を「売上の何%」で決めると、粗利率の違いを無視することになります。同じ5%でも、粗利率20%の事業では粗利の4分の1、60%の事業では1割未満です。まず粗利に置き換えてください。
計算手順は、CV1件あたりの粗利を出し、そのうち広告に使ってよい割合から許容CPAを決め、必要CV数を掛けるという流れです。
そして、算出した予算がそのまま使えるとは限りません。商圏の検索需要という別の天井があります。実際の予算は、経済性の天井と需要の天井の小さいほうです。
増額するときは、CPAの安定・インプレッションシェアの余地・対応体制・成約率の4点を確認してください。特に対応体制を見ずに増やすと、費用対効果はむしろ悪化します。
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