デジタルマーケティング

KNOWLEDGE

LTVとCACから広告費を決めるには|「3倍」の目安はSaaS由来で、比率は継続年数の置き方で動き、先に見るのは回収に何か月かかるか

  • #デジタルマーケティング

SHARE

広告のCPAが高いと相談すると、「CPAではなくLTVで見るべきです」と返ってくることがあります。1回の来店や1件の受注ではなく、その顧客が生涯にもたらす粗利で広告費を判断する、という考え方です。この助言は正しいのですが、LTVは計算すると必ず大きくなる性質があります。継続年数を1年から3年に置き換えるだけで、同じ店のLTV/CACは2.0倍から3.5倍まで動き、どんな広告費でも正当化できてしまいます。

よく引かれる「LTV/CACは3倍以上」「CACの回収は12か月以内」という目安は、SaaSの投資家向けに整理された指標で、解約率が定義できる継続契約の事業を前提にしています。再来店や再購入で成り立つ店舗やBtoBの受注型には解約率がなく、あるのは再来店率だけです。2年目以降のLTVは、その割合を掛け算で伸ばした仮定になります。

この記事では、LTVとCACの定義とCPAとの違い、3倍と12か月の目安がどこから来たか、同じ店で比率が動く仕組みを仮の数字で再現した表、継続年数の置き方に左右されない回収月数の出し方、LTVを12か月の実測で切る理由と取り方、回収月数と手元資金の関係、投下比率と回収月数が同じことの言い換えである点、Google広告の「新規顧客の獲得」目標に反映する範囲、見直すべき会社とそのままでよい会社を整理します。

この記事でわかること

・LTV/CACの比率は、継続年数をどう置くかで動く。同じ店で1年なら2.0倍、2年目に半分が残ると置けば3.0倍、3年目まで置けば3.5倍。比率だけでは投資してよいか判断できない

・「3倍以上」「回収12か月以内」の目安は、SaaSの指標として整理されたもの。解約率が定義できる継続契約の事業を前提にしていて、再来店率しかない店舗やBtoBの受注型にそのまま当てはめる根拠は無い

・継続年数の置き方に左右されないのは、回収にかかる月数(CAC÷1顧客の月あたり粗利)。上の例では、どの置き方でも6か月で変わらない

・LTVは仮定ではなく実測で置く。同じ月に初めて来た顧客を12か月追い、途中で来なくなった人も含めた平均の粗利を使う。2年目以降は上限に足さない

・回収月数は目標ではなく、手元資金で決まる。毎月30万円を出して回収が6か月なら、粗利で戻る前に最大75万円が先行する。12か月なら165万円

・既存記事の「年間粗利×投下比率」は、回収月数の言い換え。投下比率30%は回収3.6か月、50%は6か月。どちらか一方を決めれば、もう一方は決まる

・Google広告の「新規顧客の獲得」目標に入れる値は、LTVそのものではなく、新規1人に上乗せする価値。過去540日の購入を基に新規が判定され、顧客リストは1,000人未満だと使えない場合がある

同じ店でも、継続年数の置き方で比率は動く(仮の数字)
同じ店でも、継続年数の置き方で比率は動く(仮の数字)

LTV/CACの比率は継続年数の置き方で動き、回収月数は動かない

最初に結論を示します。LTVから広告費を決めるときに先に見るのは、LTVがCACの何倍かではなく、CACが何か月で戻るかです。理由は単純で、比率はLTVをどこまでの期間で数えるかによって変わり、その期間は計算する人が決めるからです。1年で切れば2倍、3年まで置けば3.5倍になる指標に、3倍という線を引いても判断にはなりません。

回収にかかる月数は、CACを1顧客の月あたり粗利で割った値です。1年目の粗利が実測できていれば、2年目以降をどう置いても変わりません。だから順序は、初回の粗利で回収できるかを見て、できないなら12か月の実測で何か月かかるかを出し、その月数を手元資金で待てるかを決める、になります。LTVの何倍かは、この後に参考として見る指標です。

許容CPAを粗利から逆算する手順そのものは、広告のCPA目安はどう決めるか|業種別平均が使えない理由で扱っています。この記事は、その手順の中で「リピートがあるならLTVで見る」と言われたときに、LTVをどう置き、何を見て決めるかを扱います。

LTVとCACの定義|CPAと何が違うか

LTV(顧客生涯価値)は、1人の顧客が取引を続ける間にもたらす粗利の合計です。売上ではなく粗利で数えます。広告費は粗利からしか払えないためです。CAC(顧客獲得コスト)は、新規顧客を1人獲得するためにかかった費用の合計を、獲得した新規顧客数で割った値です。広告の管理画面に出るCPAとは、分子に入る費用の範囲と、分母が問い合わせか顧客かの2点で違います。

指標 分子(費用) 分母 どこで見えるか
CPA 広告費のみ 問い合わせ、予約、購入などのコンバージョン 広告の管理画面
CAC 広告費、代理店の手数料、初回割引や特典の原価、クリエイティブの制作費、対応にかかった人件費 実際に顧客になった人数 自社で集計しないと出ない

問い合わせから成約までの転換率を掛けて、CPAを顧客1人あたりに直す手順は、冒頭で挙げたCPA目安の記事で扱っています。CACはそれに加えて、広告費以外の費用を分子に足したものです。代理店の手数料を広告費の外に置いたままCACを出すと、20%前後の費用が抜けます。手数料の構造は広告代理店の運用手数料はどう決まる?料金体系の違いと交渉できる範囲で扱っています。初回割引を使っている店舗では、割引額も獲得の費用です。

この記事では以降、CACを「広告費に手数料と初回特典の原価を足し、顧客数で割った値」として使います。

「3倍」と「12か月」の目安はどこから来たか|SaaSの投資家向けの指標

LTV/CACの解説記事の多くは、「3倍以上が健全」「CACの回収は12か月以内」と書いています。この2つの目安は、SaaS事業の指標として広まったものです。ベンチャー投資家のDavid Skok氏がSaaSの指標をまとめた記事では、優れたSaaS事業のLTV/CACは3を超え、7や8に達することもあるとし、CACの回収は12か月を超えると収益性が弱くなると書いています。氏自身も、これらは目安であり、破るのが合理的な場面もあると添えています。

SaaSでこの指標が成り立つのは、月額の契約と解約率があるからです。解約率が月3%なら平均の契約期間は約33か月と計算でき、LTVは「月次粗利÷解約率」で1つの値に決まります。継続契約型の事業では、解約率さえ測れれば、継続年数を人が置く必要がありません。

店舗やBtoBの受注型には、この前提がありません。美容室の顧客は解約せず、来なくなるだけです。製造業の取引先は、次の案件があるかどうかで、契約期間という概念がありません。あるのは「初回から12か月以内に何回来たか」「翌年も発注があったか」という再来店率や再発注率だけで、2年目以降は「この割合が続く」と置いた仮定になります。SaaSの目安をそのまま使うと、この仮定の部分に3倍の根拠を求めることになります。

同じ店でも比率は2倍にも3.5倍にもなる|継続年数を置き換えた試算

比率がどれだけ動くかを、仮の数字で再現します。数値はすべて仮のもので、自社の数字に置き換えて使ってください。

  • 客単価8,000円、粗利率60%。1回の来店で粗利4,800円
  • 同じ月に初めて来た顧客100人を12か月追うと、途中で来なくなった人も含めて、1人あたり平均5回来店した。1年目の粗利は1人あたり24,000円、月あたり2,000円
  • CACは12,000円(広告費と初回割引の原価を足し、新規顧客数で割った値)
継続年数の置き方 LTVの計算 LTV LTV÷CAC 回収にかかる月数
1年で切る(実測のみ) 24,000円 24,000円 2.0倍 12,000円÷2,000円=6か月
2年目に半分が残ると置く 24,000円+12,000円 36,000円 3.0倍 6か月(変わらない)
3年目にさらに半分が残ると置く 24,000円+12,000円+6,000円 42,000円 3.5倍 6か月(変わらない)

1年で切ると2.0倍で、3倍の目安に届きません。2年目に半分が残ると置いた瞬間に3.0倍になり、目安を満たします。同じ店、同じCAC、同じ1年目の実績で、判断が「投資できない」から「投資できる」に変わっています。変わったのは店ではなく、置いた年数です。

一方、回収にかかる月数は、CAC12,000円を月あたり粗利2,000円で割った6か月で、どの行でも同じです。回収は1年目の中で終わっており、2年目以降をどう置いても影響しません。比率は「その先どれだけ儲かるか」の仮定を含み、回収月数は「出した費用がいつ戻るか」の実測だけでできています。投資の可否を決めるのに使えるのは後者です。

2年目に半分が残るという割合そのものは、開業から2年以上経った店なら実測できます。しかしその数字が出るのは2年後で、今年の広告費を決める材料にはなりません。過去のコホートで測った2年目の割合を参考に使うことはできますが、上限を決める計算には足さない、という線引きをします。

回収月数の出し方|初回の粗利で回収できるならLTVは要らない

回収にかかる月数は、次の式で出します。

  • 回収月数=CAC÷1顧客の月あたり粗利
  • 1顧客の月あたり粗利=12か月の実測で出した1顧客の年間粗利÷12

この式を当てる前に、1つ手前の確認があります。初回の取引の粗利だけでCACを回収できているなら、LTVを計算する必要はありません。リフォーム、士業の単発案件、Web制作のような高単価で単発の商材は、1件の粗利が数十万円になり、CACはその一部で収まります。この場合は、初回粗利から許容CPAを逆算する手順だけで足り、LTVを持ち出すと判断が甘くなるだけです。

事業の型 LTVの扱い 回収月数の出し方 詳しくは
単発・高単価(リフォーム、士業の単発案件、Web制作) 使わない。初回の粗利で回収できるかだけを見る 初回粗利がCACを上回れば、回収は初回で終わる 初回粗利から許容CPAを逆算する手順(冒頭のリンク)
再来店・再購入型(美容室、整体院、飲食店、EC、小売) 12か月の実測で置く。2年目以降は上限に足さない CAC÷(12か月の1顧客粗利÷12) この記事
継続契約型(ジム、学習塾、サブスクリプション、保守契約) 月次粗利×平均在籍月数。解約率が測れるなら「月次粗利÷解約率」 CAC÷月次粗利。在籍月数が回収月数を下回ると赤字 フィットネスジムの集客戦略|体験入会の申込率と継続率から逆算する

継続契約型は、SaaSと同じ構造を持つため、3倍と12か月の目安が最も当てはまる型です。それでも見るべきは在籍月数と回収月数の差で、在籍月数が回収月数を下回っている状態で新規を増やすと、集めるほど損失が増えます。この構造は、上の表で挙げたフィットネスジムの記事で扱っています。

LTVは仮定ではなく実測で置く|12か月コホートの取り方

再来店型の事業でLTVを置くとき、「客単価×年間来店回数×継続年数」の式に、来店回数と継続年数を感覚で入れると、前の章の表のとおり結果が動きます。代わりに、同じ月に初めて来た顧客を1つの集団として12か月追い、その集団の粗利の合計を人数で割ります。途中で来なくなった人も分母に残します。これが、1年目の実測に基づく1顧客のLTVです。

必要なデータは3つです。顧客を識別するID、初回の取引日、取引ごとの粗利(売上と粗利率でも構いません)。POSレジ、予約システム、ECのカート、BtoBなら請求データのどれかに、この3つは入っています。問い合わせから成約までの記録が残っていないと、そもそも顧客単位で数えられません。獲得後のデータを残す最低限の形は問い合わせ後の歩留まりを改善する|リード管理の始め方で扱っています。

12か月で切る理由は3つ

  • 測れる範囲だから。開業や施策の開始から1年経てば、最初の集団の12か月分が出揃う。2年目の割合が実測で出るのは2年後で、今年の予算には間に合わない
  • 2年目以降は割合の掛け算になるから。「半分が残る」の半分が実際は3割だった場合、2年目の粗利は12,000円ではなく7,200円になる。年を重ねるほど、仮定のずれが乗算で効く
  • 資金が先に出るから。広告費は今月出て、粗利は12か月かけて戻る。2年目の粗利を根拠に今年の広告費を増やすと、戻る前に資金が尽きる

開業したばかりで12か月の実測が無い段階は、この方法が使えません。その場合は実績の代わりに想定の年間粗利を置き、期間を区切って使い切る計画にします。実績が無い時期の予算の組み方は新規開業時のWeb広告費用の目安|業種別の立ち上げ期予算プランで扱っています。想定で置いた数字は、最初の集団が12か月分揃った時点で実測に置き換えます。

媒体ごとにLTVが違う点も、コホートで見ると分かります。ポータルサイト経由の新規は自社経由より再来店率が低い、といった差は、初回の流入元を顧客IDに残しておくと集団ごとに比べられます。流入元でLTVが違うなら、許容CACも流入元ごとに変わります。

回収月数は目標ではなく、手元資金で決まる

回収月数が出たら、次は「その月数を待てるか」です。回収が何か月までなら許容できるかは、KPIの目標ではなく、粗利で戻る前に先行する資金をいくらまで出せるかで決まります。

仮に、毎月30万円の広告費を出し続け、各月に獲得した顧客の粗利が回収月数の間に均等に戻るとします。1か月目は30万円を出して5万円しか戻らず、2か月目は10万円、と積み上がり、6か月目に出す額と戻る額が並びます。それまでに先行する資金の合計は最大75万円です。式にすると「月の広告費×(回収月数−1)÷2」で、月額×回収月数の180万円ではありませんが、半分近くが戻る前に出ていきます。

回収月数 先行する資金の最大額(月30万円の場合) 意味
3か月 30万円 翌々月には戻り始める。運転資金への影響は小さい
6か月 75万円 半年分の広告費の4割強が、戻る前に出ていく
12か月 165万円 ほぼ半年分の広告費に相当する資金が先行する。1年後まで効果が確定しない

この表は入金のタイミングを均した簡略の式で、実際は初回の入金が翌月末になる、季節で来店が偏る、といったずれが出ます。それでも、「回収12か月以内」という目安が、月30万円の広告費に対して165万円の先行を意味することは、目安を使う前に知っておく必要があります。SaaSの投資家が12か月を許容できるのは、その先行資金を投資で賄う前提があるからで、自己資金で回す会社が同じ月数を許容する理由にはなりません。

手元資金と相談して「回収は4か月まで」と決めれば、許容できるCACは月あたり粗利2,000円×4か月=8,000円と決まります。回収月数を先に決めると、許容CACはそこから出てきます。逆に、LTV/CACが3倍だからと許容CACを先に決めると、回収月数と先行資金は後から分かることになります。

「年間粗利×投下比率」と回収月数は、同じことの言い換え

当社の既存の記事では、許容CACを「1顧客の年間粗利×投下比率」で出しています。年間粗利36,000円に投下比率30%を掛けて10,800円、という形です。この手順は店舗集客のGoogle広告費用相場は?月額予算の決め方を計算式で解説広告予算はいくらが適正?売上比率ではなく粗利から決める方法で扱っています。投下比率と回収月数は、同じ判断を別の単位で言っているだけです。年間粗利の30%を獲得に使うということは、12か月の3割、つまり3.6か月分の粗利で回収する、と同じ意味になります。

年間粗利に対する投下比率 回収月数に直すと 位置づけ
20% 2.4か月 単発に近い商材、または資金の余裕が小さい会社の標準
30% 3.6か月 再来店がある商材の標準的な上限
50% 6か月 再来店や継続が実測で確認できている商材のみ。半年分の粗利を先に出す
100% 12か月 1年目は利益が出ない。2年目以降の粗利を当てにした投資で、SaaSの目安と同じ位置

この対応表を見ると、「粗利の50%超を広告に使えるのはリピートがある商材のみ」という既存記事の条件が、回収月数の側から説明できます。投下比率50%は、6か月分の粗利が戻るまで待つという意味で、再来店が実測できていない商材でそれを置くと、戻らない前提で費用を出すことになります。どちらの単位で考えても構いませんが、資金の議論をするときは回収月数のほうが経営者に伝わります。

Google広告の「新規顧客の獲得」目標に、LTVをどこまで反映するか

LTVを広告の設定に反映する手段として、Google広告には顧客ライフサイクル目標の1つである「新規顧客の獲得」目標があります。ヘルプによると、既存顧客より新規顧客に対する入札単価を高くする「新規顧客の価値」モードと、新規顧客に対してのみ入札する「新規顧客のみ」モードがあり、検索、P-MAX、ショッピング、デマンド ジェネレーションのキャンペーンで使えます。新規かどうかの判定は、過去540日間のキャンペーン アクティビティとトラッキングされた購入を基に自動で作られるリストと、自社でアップロードする顧客リストで行われ、顧客リストの登録ユーザー数が1,000人未満だと有効にできない場合があります。

ここで設定する「新規顧客の価値」は、LTVそのものではなく、新規顧客1人の最初の購入のコンバージョン値に上乗せする追加の値です。ヘルプは、この値が大きいほど新規顧客を重視して最適化されるとし、レポートのコンバージョン値の列には元の購入の値と追加の値の両方が含まれると書いています。つまり、この値を大きくするとレポート上のROASも上がって見えます。回収月数の判断に使う数字は、この列ではなく自社の実件数と粗利で持つ必要があります。コンバージョン値の設計はコンバージョン値の設定方法|CV数ではなく金額で広告を運用するで扱っています。

中小企業の実務では、この機能を使う前に条件が2つあります。1つは購入や成約がコンバージョンとして計測されていること。問い合わせ止まりの計測では、新規と既存の区別ができません。もう1つは、顧客リストが1,000人を超えていること。月に数十件の新規獲得で顧客リストが数百人の段階では、機能の要件を満たしません。その段階では、成約データを広告に戻す設定のほうが先です。手順はオフラインコンバージョンとは?来店・成約データを広告に反映する方法で扱っています。

LTVで見直したほうがよい会社と、そのままでよい会社

見直したほうがよい会社

  • 初回の粗利ではCACを回収できないが、再来店が実測で確認できている。12か月コホートでLTVを置き、回収月数を出す。許容CACが初回粗利ベースより上がる余地がある
  • LTV/CACが3倍あると言われて広告費を増やしたが、資金繰りが苦しい。継続年数の置き方を確認し、回収月数と先行資金を出し直す。比率が正しくても、回収が長ければ資金は先に減る
  • 流入元によって再来店率が違う。ポータル経由と自社経由、検索広告経由とSNS経由でコホートを分け、流入元ごとに許容CACを変える
  • 継続契約型で、在籍月数と回収月数を比べたことがない。在籍月数が回収月数を下回っていれば、新規の広告より継続施策が先

そのままでよい会社

  • 初回の粗利でCACを回収できている。LTVを計算する必要はなく、初回粗利ベースの許容CPAで運用を続ける。LTVを足すと上限が上がるだけで、判断は良くならない
  • 12か月の実測がまだ無い。想定の年間粗利で期間を区切った予算を組み、最初の集団が12か月分揃ってから実測に置き換える。想定のまま増額しない
  • 顧客IDと取引の記録が無い。LTVより先に、獲得後のデータを残す仕組みを作る。記録が無ければ、どの式も使えない

決める順序|初回粗利、12か月の実測、回収月数、資金、上限

順序を守る理由は、LTVの計算を最後に回し、先に「実測で分かっている範囲」と「待てる月数」を固めるためです。先にLTVを置くと、置いた年数に合わせて他の数字が決まり、逆算になりません。

1. 初回の粗利でCACを回収できるかを見る

平均受注単価×粗利率×成約率で1件あたりの初回粗利を出し、CACと比べます。回収できていれば、以降の手順は不要です。

2. 同じ月に初めて来た顧客を12か月追い、1人あたりの年間粗利を出す

途中で来なくなった人も分母に残します。流入元が分かるなら、流入元ごとに分けます。12か月分が無い場合は想定で置き、揃った時点で置き換えます。

3. 回収月数を出す

CACを、年間粗利÷12で割ります。CACには広告費のほか、手数料と初回特典の原価を含めます。

4. 何か月まで待てるかを、先行する資金から決める

月の広告費×(回収月数−1)÷2で、戻る前に先行する資金の最大額を出し、手元資金と照らします。待てる月数はKPIではなく、資金の判断です。

5. 待てる月数から許容CACを決め、投下比率に直す

月あたり粗利×待てる月数が許容CACです。年間粗利で割れば投下比率になり、既存の予算の手順と接続します。LTV/CACの比率は、この後に参考として見ます。

よくある失敗

継続年数を3年と置いてLTVを出し、3倍を満たしたので広告費を増やす

3年目まで置けば、多くの事業で3倍に届きます。届いたのは店の実力ではなく置いた年数です。回収月数と先行資金を出し直し、待てる月数で上限を決めます。

LTVを売上で計算する

広告費は粗利からしか払えません。売上で計算したLTVは、粗利率60%の店なら実際の1.7倍近くになり、許容CACがその分だけ過大になります。

CACに広告費しか入れない

代理店の手数料、初回割引の原価、制作費を足すと、CACは管理画面のCPAを顧客数で割った値より大きくなります。回収月数はその分だけ延びます。

来なくなった顧客をLTVの計算から外す

続いている顧客だけで平均を出すと、LTVは実際より高く出ます。同じ月に初めて来た全員を分母に残します。

SaaSの「回収12か月以内」を自己資金の店舗に当てはめる

12か月の回収は、月30万円の広告費で165万円の先行を意味します。投資で賄う前提の目安であり、手元資金で回す会社が同じ月数を許容する理由にはなりません。

Google広告の「新規顧客の価値」にLTVの全額を入れる

この値はコンバージョン値に上乗せされ、レポートのROASも上がって見えます。判断に使う数字は自社の実件数と粗利で持ち、広告の設定値と混ぜないようにします。

記録が無いまま式だけ当てはめる

顧客IDと取引日と粗利が残っていなければ、コホートは作れません。式より先に、獲得後のデータを残す仕組みを作ります。

よくある質問

LTV/CACは3倍あれば投資してよいですか

比率は継続年数の置き方で動くため、それだけでは判断できません。CACが何か月で戻るかを1年目の実測で出し、その月数を手元資金で待てるかで決めます。3倍という目安はSaaSの投資家向けに整理されたもので、解約率が定義できる継続契約の事業を前提にしています。

LTVは何年分で計算すればよいですか

上限を決める計算には、12か月の実測だけを使います。同じ月に初めて来た顧客を1年追い、途中で来なくなった人も含めた平均の粗利を使います。2年目以降の割合は参考として持ち、上限には足しません。

CPAとCACはどう違いますか

CPAは広告費を問い合わせなどのコンバージョン数で割った値で、広告の管理画面に出ます。CACは広告費に代理店の手数料や初回特典の原価などを足し、実際に顧客になった人数で割った値で、自社で集計しないと出ません。

開業したばかりで12か月のデータがありません

想定の年間粗利を置いて、期間を区切った予算を組みます。最初の集団の12か月分が揃った時点で、想定を実測に置き換えます。想定のまま増額しないことが条件です。

回収月数は何か月が目安ですか

目安はなく、手元資金で決まります。月の広告費×(回収月数−1)÷2で先行する資金の最大額を出し、出せる額から逆算します。既存記事の投下比率30%は回収3.6か月、50%は6か月に相当します。

単発の商材でもLTVを計算すべきですか

初回の粗利でCACを回収できているなら不要です。LTVを足すと上限が上がるだけで、判断は良くなりません。初回粗利から許容CPAを逆算する手順だけで足ります。

Google広告の「新規顧客の獲得」目標は使うべきですか

購入や成約がコンバージョンとして計測されていて、顧客リストが1,000人を超えていることが条件です。設定する「新規顧客の価値」はLTVそのものではなく、新規1人の最初の購入の値に上乗せする追加の値で、レポートのコンバージョン値にも含まれます。判断に使う数字は自社の実件数と粗利で別に持ちます。

まとめ

LTVから広告費を決めるとき、LTV/CACの比率は継続年数の置き方で動きます。同じ店で1年なら2.0倍、2年目に半分が残ると置けば3.0倍、3年目まで置けば3.5倍になり、比率だけでは投資の可否は決まりません。「3倍以上」「回収12か月以内」の目安はSaaSの指標として整理されたもので、解約率が定義できない店舗やBtoBの受注型に当てはめる根拠はありません。

継続年数の置き方に左右されないのは、CACを1顧客の月あたり粗利で割った回収月数です。LTVは同じ月に初めて来た顧客を12か月追った実測で置き、2年目以降は上限に足しません。回収月数を何か月まで待てるかは、KPIではなく、粗利で戻る前に先行する資金で決めます。月30万円の広告費なら、回収6か月で最大75万円、12か月で165万円が先に出ていきます。

既存の「年間粗利×投下比率」は回収月数の言い換えで、30%は3.6か月、50%は6か月に相当します。決める順序は、初回粗利で回収できるかを見て、12か月の実測を取り、回収月数を出し、待てる月数を資金から決め、そこから許容CACと投下比率を出す、です。Google広告の「新規顧客の獲得」目標に入れる値はLTVそのものではなく、判断に使う数字は自社の実件数と粗利で持ちます。

顧客単位の粗利を残す計測の設計から、回収月数に基づく許容CACの設定、成約データを広告に戻す運用までの設計はWEBマーケティング・広告運用で承っています。会社紹介資料は資料ダウンロードから、ご相談はお問い合わせからご連絡ください。

SHARE