カスタマージャーニーマップは、顧客が認知から購入までにたどる過程を可視化する手法です。ただし、作ったものの一度も参照されないという結末になりやすい成果物でもあります。
使われない理由ははっきりしています。想像で埋めた内容は、誰も信じられないからです。実際の顧客がどこで悩み、何を調べたかを知らないまま作ると、作った人の思い込みを可視化しただけのものになります。
この記事では、作る価値がある条件、埋めるべき情報の集め方、Webサイトの改善に接続する方法、そして簡易版で足りる場合を整理します。
この記事でわかること
・想像で埋めると、思い込みの可視化にしかならない
・作る価値があるのは、関係者の認識がずれている場合
・埋める情報は既存の記録から集められる
・改善に接続しないと使われない
・簡易版で足りる場合がある
・更新しないと、すぐに実態と乖離する
想像で埋めると思い込みの可視化になる
ジャーニーマップの各段階で顧客が何を考えているかを書く欄があります。ここを想像で埋めると、根拠のない内容が確定した情報のように扱われます。
| 埋め方 | 得られるもの | 問題 |
|---|---|---|
| 想像で埋める | 作った人の仮説 | 根拠がなく議論が空転する |
| 社内の意見を集める | 社内の認識 | 顧客の実態とは限らない |
| 既存の記録から集める | 実際に起きたこと | 偏りはあるが根拠がある |
| 顧客に聞く | 本人の言葉 | 手間はかかるが最も確か |
完全に正確である必要はありませんが、根拠の有無は明示してください。想像で埋めた箇所と、記録に基づく箇所を区別しておくと、後の議論で扱いを変えられます。
想像で埋めた内容が、確定情報のように扱われる危険がある。
根拠のある箇所と、想像の箇所を区別して記載する。
作る価値があるのは認識がずれている場合
この手法が有効なのは、関係者の間で顧客像や購買過程の認識が食い違っている場合です。
- 営業と制作で、顧客が何に困っているかの認識が違う
- 経営層と現場で、購入の決め手についての理解が違う
- 部署ごとに顧客との接点があり、全体像を誰も持っていない
- 施策が個別最適になり、全体の流れが分断している
逆に、関係者が少なく認識が揃っている場合は、作る手間に見合いません。その時間を実際の改善に使うほうが成果につながります。
問い合わせが来ない原因の切り分けにはホームページから問い合わせが来ない原因の切り分け方|5段階で診断するのほうが直接的です。
関係者の認識がずれている場合に価値がある。
認識が揃っているなら、作る手間に見合わない。
埋める情報は既存の記録から集められる
顧客調査を実施しなくても、多くの企業がすでに材料を持っています。
| 情報源 | 分かること | 手間 |
|---|---|---|
| 問い合わせの内容 | 検討段階での疑問 | 小さい |
| 営業の商談記録 | 決め手と懸念 | 小さい |
| よくある質問の記録 | 共通する不明点 | 小さい |
| 検索キーワード | 調べている言葉 | 小さい |
| サイト内の行動データ | どこで離脱したか | 計測があれば小さい |
| 顧客への聞き取り | 本人の言葉 | 大きい |
まず既存の記録から埋めてください。それでも埋まらない箇所が、調査すべき対象になります。最初から調査を計画すると、着手までに時間がかかります。
検索されている言葉の把握はSearch Consoleで最初に見る3つの画面|順位が分かっても打ち手にならない理由を参照してください。
既存の記録から埋め、埋まらない箇所を調査対象にする。
最初から調査を計画すると、着手が遅れる。
改善に接続しないと使われない
作った後、何をするかまで決めておかないと、成果物が保管されるだけで終わります。
- 各段階で、顧客が離脱している箇所を特定する
- その箇所が、自社のどの接点(ページ、資料、対応)に対応するか対応づける
- 対応する接点で、何が不足しているかを書き出す
- 影響の大きい箇所から改善の施策を決める
- 実施後、離脱が減ったかを確認する
ジャーニーマップは現状を整理する道具であり、それ自体が改善案ではありません。接点との対応づけまで行って、初めて実務に接続します。
現状の整理であって、改善案ではない。
自社の接点と対応づけて、初めて実務につながる。
簡易版で足りる場合
詳細な形式で作らなくても、目的を果たせることがあります。
| 目的 | 必要な粒度 | 形式 |
|---|---|---|
| 関係者の認識を揃える | 段階と課題のみ | 段階を並べた一覧 |
| サイトの改善点を探す | 段階と接点の対応 | 段階ごとの接点表 |
| 新規サービスの設計 | 詳細な感情や行動 | 本格的な形式 |
| 社内の共通言語を作る | 段階の名称のみ | 用語の定義 |
形式に凝ると作成の負担が増え、更新されなくなります。目的に必要な粒度で作ってください。多くの場合、段階と課題と接点の3列で足ります。
形式に凝ると更新されなくなる。
多くの場合、段階と課題と接点の3列で足りる。
更新しないと実態と乖離する
顧客の行動は変わります。作った時点の内容が、数年後も正しいとは限りません。
- 情報を調べる手段が変われば、接点が変わる
- 競合が増えれば、比較の段階が長くなる
- 自社のサービスが変われば、検討の内容が変わる
- 更新しないマップを参照すると、判断を誤る
更新の予定が立たないなら、詳細に作り込む意味は薄くなります。簡易な形式で作り、定期的に見直すほうが実用的です。
顧客の行動は変わる。作った時点の内容は古くなる。
更新できない前提なら、簡易な形式にする。
ペルソナとの関係
ジャーニーマップは誰の旅かが決まっていないと作れません。
| 状態 | 作れるか | 対応 |
|---|---|---|
| 対象が明確 | 作れる | そのまま進める |
| 対象が複数いる | 対象ごとに作る | 主要な対象から |
| 対象が曖昧 | 作れない | 先に対象を定義する |
複数の顧客像を1枚にまとめると、どの段階の記述も曖昧になります。主要な対象から1つずつ作ってください。対象の定義はWebデザインにおけるペルソナ設計の考え方と作り方を参照してください。
顧客に直接聞く場合の手法はUXリサーチの手法の使い分け|知りたいことが決まれば、方法は決まる、獲得後の歩留まり改善は問い合わせ後の歩留まりを改善する|リード管理の始め方を参照してください。
誰の旅かが決まっていないと作れない。
複数の顧客像を1枚にまとめると、記述が曖昧になる。
工程全体の中で見る
この工程の前後には、情報の分類と構造の設計があります。全体の流れは情報設計(IA)とは?わかりやすいサイト構成の作り方を参照してください。
よくある失敗
想像で全欄を埋める
根拠のない内容が確定情報のように扱われます。記録に基づく箇所と区別してください。
作ることが目的になる
現状の整理であって改善案ではありません。接点との対応づけまで行ってください。
形式に凝りすぎる
作成の負担が増え、更新されなくなります。目的に必要な粒度にしてください。
複数の顧客像を1枚にまとめる
記述が曖昧になります。主要な対象から1つずつ作ってください。
作った後に更新しない
顧客の行動は変わります。古いマップを参照すると判断を誤ります。
よくある質問
誰が作るべきですか
顧客との接点を持つ複数の部署から人を集めることを推奨します。1人で作ると、その人の視点に限定されます。ただし人数が多すぎると議論がまとまらないため、数名程度が現実的です。
BtoBでも有効ですか
有効です。むしろ検討期間が長く関与者が複数いるBtoBのほうが、全体像を持つ人がいない状態になりやすくなります。ただし意思決定者と利用者が違うため、それぞれの動きを分けて記述してください。
感情の起伏を書く欄は必要ですか
目的によります。関係者の認識を揃える目的なら、あったほうが伝わります。サイトの改善点を探す目的なら、感情より行動と接点の記述が重要です。
既存顧客の記録だけで作ってよいですか
注意が必要です。既存顧客は購入に至った人であり、途中で離脱した人の情報が含まれません。離脱の理由を知りたい場合は、問い合わせたが成約しなかった記録も併せて確認してください。
作成にどのくらい時間をかけるべきですか
目的によりますが、初回は数時間から1日程度で簡易版を作り、実際に使ってみることを推奨します。時間をかけて完成度を上げても、使われなければ意味がありません。使ってみて不足が分かってから、精度を上げてください。
まとめ
カスタマージャーニーマップは、作ったものの一度も参照されないという結末になりやすい成果物です。理由は明確で、想像で埋めた内容は誰も信じられないからです。実際の顧客がどこで悩み何を調べたかを知らないまま作ると、作った人の思い込みを可視化しただけのものになります。根拠のある箇所と想像の箇所は区別して記載してください。
この手法が有効なのは、関係者の間で顧客像や購買過程の認識が食い違っている場合です。営業と制作で顧客の困りごとの認識が違う、部署ごとに接点があって全体像を誰も持っていない。こうした状況では価値があります。逆に関係者が少なく認識が揃っているなら、作る手間を実際の改善に使うほうが成果につながります。
埋める情報は、顧客調査を実施しなくても既存の記録から多くを集められます。問い合わせの内容、商談記録、検索されている言葉、サイト内の行動データ。まずこれらから埋め、それでも埋まらない箇所が調査すべき対象になります。そして作った後は、各段階の課題を自社の接点と対応づけてください。この作業を経て、初めて実務の改善につながります。
当社ではホームページ制作において、顧客の検討過程を踏まえた導線設計をご相談いただけます。現状の整理から進めたい場合はお問い合わせよりご連絡ください。