UXリサーチの手法を比較する記事は多くありますが、実務で迷うのは「どの手法が優れているか」ではなく「自社は今どれをやるべきか」です。そして、これは知りたいことが決まれば自動的に決まります。
分岐は単純です。「なぜそうするのか」を知りたいのか、「どれだけ起きているのか」を知りたいのか。前者なら少人数に深く聞く方法、後者なら多数から数を取る方法になります。この2つを混ぜると、どちらも中途半端になります。
この記事では、目的別の選び方、少人数でできる方法、聞いてはいけない質問、そして結果を打ち手に変える手順を整理します。
この記事でわかること
・「なぜ」と「どれだけ」で手法が分かれる
・目的別の手法の選び方
・少人数・低コストで実施できる方法
・聞いてはいけない質問
・リサーチが不要な場面
・結果を打ち手に変える手順
「なぜ」と「どれだけ」で分かれる
| 知りたいこと | 適した手法 | 必要な人数 | 分かること |
|---|---|---|---|
| なぜそう行動するのか | インタビュー | 5〜8人 | 理由、背景、判断の基準 |
| どこでつまずくのか | 行動観察・ユーザビリティテスト | 5人前後 | 実際の操作と迷い |
| どれだけ起きているのか | アクセス解析 | 全数 | 頻度、経路、離脱の箇所 |
| どちらが良いか | ABテスト | 統計的に十分な数 | 選択肢の優劣 |
| どう思っているか(量) | アンケート | 数十〜数百 | 傾向、割合 |
| 何が起きているか(画面内) | ヒートマップ | 一定数以上 | スクロール、クリックの分布 |
実務で最も使われるのは2行目と3行目の組み合わせです。アクセス解析でどこで落ちているかを特定し、行動観察でなぜ落ちるのかを確かめる。この順序が効率的です。
1行目と5行目を混同しないでください。インタビューで「何%の人がそう思っているか」は分かりません。逆にアンケートで理由の深さは取れません。
「どこで落ちているか」は解析、「なぜ落ちるか」は観察。
この2つを1つの手法で済ませようとすると、どちらも取れない。
少人数・低コストで実施できる方法
本格的な調査を組まなくても、実施できる方法があります。まずここから始めるほうが、着手までの時間が短く済みます。
- 既存顧客に3つ質問する:なぜ選んだか、他に何を検討したか、迷った点は何か
- 社内の非担当者に操作してもらう:5人で主要な問題の多くが見つかる
- 問い合わせの内容を分類する:既にあるデータ。何が伝わっていないかが分かる
- 受付・営業に繰り返し聞かれることを聞く:現場に蓄積している
- 解析で離脱の多いページを特定する:どこを見るべきか決まる
3番目は費用がゼロで、既にデータが存在します。問い合わせの内容は「サイトに書かれていない情報」そのものです。月次で分類するだけで改善点が出ます。
2番目については、専門的な設備は不要です。実施の手順はユーザビリティテストのやり方|低コストで始める実践手順にまとめています。
聞いてはいけない質問
| 聞き方 | 問題 | 代わりに聞くこと |
|---|---|---|
| このデザインはどう思いますか | 感想であり、行動を予測できない | この画面で次に何をしますか |
| この機能があったら使いますか | 使うと答えるが、実際は使わない | 今、同じことをどうやっていますか |
| どちらが好きですか | 好みは購買と一致しない | どちらのほうが探しやすかったですか |
| 改善点を教えてください | 設計は相手の仕事ではない | 困ったのはどこでしたか |
| いくらなら買いますか | 実際の支払いとは違う回答になる | 直近で似たものにいくら払いましたか |
2行目は特に注意が必要です。「あったら使う」という回答は、ほとんど実現しません。聞くべきは今の行動であり、未来の意向ではありません。
5行目も同様です。金額の意向は実際の支払いと乖離します。過去に実際に支払った金額のほうが、判断材料になります。
観察するときの原則
- 助けない:迷っている場面が最も価値のある情報
- 説明しない:説明が必要な時点で設計に問題がある
- 誘導しない:「このボタンを押してください」と言わない
- 感想ではなく行動を見る:言っていることより、していること
- 止まった箇所を記録する:迷った秒数、戻った操作
1つ目が最も守れません。目の前で迷っていると助けたくなりますが、そこが直すべき箇所です。助けてしまうと、何が問題だったのか分からなくなります。
4つ目については、言葉と行動が食い違うことが頻繁にあります。「分かりやすい」と言いながら操作に時間がかかっているなら、行動のほうが実態です。
リサーチが不要な場面
| 状況 | 理由 | 先にやること |
|---|---|---|
| 明らかな不具合がある | 調べるまでもない | 直す |
| 情報が不足している | 書けば解決する | 書き足す |
| 流入がほとんどない | 対象者がいない | 集客を先に |
| 解析を見ていない | 既にあるデータを使っていない | 解析を確認する |
| 結果を反映する体制がない | 調べても変わらない | 誰が直すかを決める |
4行目は非常に多くあります。アクセス解析で分かることを、インタビューで聞こうとしているケースです。既にあるデータを先に見てください。セグメントで分けて見る方法はGA4のセグメント分析の始め方|全体平均では見えない差を取り出すで扱っています。
5行目も現実的な問題です。調べた結果を反映できないなら、調査そのものが無駄になります。誰がいつ直すかを先に決めてください。
解析で分かることを、インタビューで聞こうとしない。
直す人と時期が決まっていないなら、調べても変わらない。
結果を打ち手に変える
- 観察した事実だけを書き出す:解釈と分ける
- 複数人で共通していたものを抽出する:1人だけの事象は保留
- 原因の仮説を立てる:なぜそうなったか
- 直す箇所を決める:影響の大きい順
- 担当と期限を決める:ここまでで1セット
- 直した後に同じ方法で確認する:改善したかを見る
1番目で解釈を混ぜると、後から検証できなくなります。「分かりにくそうだった」ではなく「3人中2人が、この画面で10秒以上止まった」と書いてください。
検証が必要な変更については、同時に複数を変えないでください。比較の設計はABテストの始め方|やるべき条件と、できない場合の代替手段を参照してください。
UXリサーチで分かるのは体験全体の問題ですが、実際に出てくる指摘には画面の作りに起因するものが混ざります。どこまでがUIの問題で、どこからがUXの問題かはUIデザインとUXデザインの違いとは?具体例や設計プロセス、改善ポイントをわかりやすく解説で整理しています。
工程全体の中で見る
この工程の前後には、情報の分類と構造の設計があります。全体の流れは情報設計(IA)とは?わかりやすいサイト構成の作り方を参照してください。
よくある失敗
手法から選ぶ
知りたいことが決まっていないと、何を聞けばよいかも決まりません。問いを先に決めてください。
インタビューで割合を知ろうとする
少人数から比率は取れません。量を知りたいならアンケートか解析です。
「あったら使いますか」と聞く
使うと答えますが、実際には使いません。今どうしているかを聞いてください。
観察中に助けてしまう
迷っている場面が最も価値のある情報です。助けると何が問題か分からなくなります。
調べた結果を反映しない
調査そのものが無駄になります。誰がいつ直すかを先に決めてください。
よくある質問
何人に聞けば十分ですか
目的によります。操作上の問題を見つけるなら5人前後で主要なものが出ます。割合を知りたいなら、それでは足りません。
既存顧客と見込み客のどちらに聞くべきですか
知りたいことで決まります。選ばれた理由は既存顧客、選ばれなかった理由は失注した相手です。後者のほうが得られる情報は多いものの、協力を得るのが難しくなります。
謝礼は必要ですか
社外の人に時間を取ってもらう場合は用意するのが一般的です。ただし既存顧客への短い質問であれば、通常のやり取りの中で聞ける場合もあります。
ペルソナを作る必要はありますか
リサーチの結果を整理する手段の1つです。ただし想像で作ると判断を誤らせます。実際に聞いた内容をもとにする場合に有効です。作り方はWebデザインにおけるペルソナ設計の考え方と作り方を参照してください。
画面内の行動を見るにはどうしますか
どこまで読まれているか、どこが押されているかは専用の計測で分かります。ただし理由までは分かりません。数が分かったら、次はその箇所を人に操作してもらって理由を確かめる、という順序になります。
まとめ
UXリサーチの手法は、優劣ではなく知りたいことで決まります。分岐は単純で、「なぜそうするのか」を知りたいなら少人数に深く聞く方法、「どれだけ起きているのか」を知りたいなら多数から数を取る方法です。この2つを1つの手法で済ませようとすると、どちらも取れません。
実務で最も効率的なのは、アクセス解析でどこで落ちているかを特定し、行動観察でなぜ落ちるのかを確かめる順序です。そして本格的な調査を組まなくても、既存顧客に3つ質問する、社内の非担当者に操作してもらう、問い合わせの内容を分類する、といった方法から始められます。特に問い合わせの分類は費用がゼロで、既にデータが存在します。
聞き方には注意が必要です。「この機能があったら使いますか」への回答はほとんど実現しません。聞くべきは未来の意向ではなく今の行動です。観察では助けないこと。目の前で迷っている場面こそが、直すべき箇所を示しています。そして調べた結果を反映する担当と期限が決まっていないなら、調査そのものが無駄になります。
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